ドイツ人女性の夢

スーパーマーケットの冷凍コーナーの前に陣取り、ぼくは受験勉強をしている。ときどき目の前にある鮨を勝手につまんだりしながら。夜になったので家に帰ろうと思う。というかなんとなくそろそろ家に帰ろうと思う。使用していたダンボールを丁寧に折りたたんで、これをどこに置けばいいのかと店員に訊ねるが、家に持って帰った方がいいと店員はいう。「リサイクルのためのダンボール置き場には600人も並んでいるよ」「じゃあ持って帰ることにします」
家族が迎えに来ているので駐車場まで歩く。駐車場では人々がみんなこぞってダンボールを他人の車の下に投げ入れている。彼らは並ぶのも嫌だし、かといって家に持ち帰るのも嫌なのだ。薄暗い遠くの方でその行為は、漁とか農耕とか狩りとかの動作を思わせる。
車の前で家族が車を取り囲むようにして談笑している。そこにはドイツ人の女性もいて、ひさしぶりにぼくの家に遊びに来たところなのだという。父の運転する車は駅で彼女を拾い、スーパーでぼくを拾ったということのようだ。ぼくたちは家に帰る。車中、ぼくはドイツ人女性とちょこちょこと英語で話す。母が「それってドイツ語なの?」という。「ううん、英語」と彼女は答える。彼女は27才で、ぼくは15才だ。彼女はみんなには43才だということで通している。ぼくだけが本当の年齢を知っているのだ。