heherhere

「heherhere」というサイト名についてなのですが、どういう意味なのですか。と聞かれる前に、たぶん聞かれることもなさそうだけど書きます。これは10年くらい前に思いついたものです。いつか自分が持つであろうブログのために。んなわけありません。ときどきぼくはそうやって、まだ世の中にあまりなさそうなことばの組み合わせを考えたりしていて、これもそのうちのひとつ、というわけなのです。そういうのがいくつかストックしてあるのですね。余ったごはんをタッパに入れて冷凍しとくみたいに。といっても滅多に使われたりすることはないし、そんなのとくに使う場所だってないし、ほとんどの場合は忘れられてしまうのですが、どういうわけかこれはいつまでも覚えていて、今回、ここぞとばかりにひっぱりだしてきたというわけなのです。彼。彼女の。ここで。とか、まあそういう感じ。なんとなく、ぼわっとしたイメージが像を結ぶような気がしませんか。でもなにか具体的なものを想起させはしない。英語的には意味をなさないですが、そんなことはどうだってかまいません。
heherhere。heにまずrが加わりherになり、そしてherにeが加わりhereになり、芋虫が歩いているみたいに、あるいは蟻の行列みたいに見えはじめると、それはひとつの運動体となってにわかに移動しはじめます。たとえば水平線に沿って。モンゴルの大平原とか、シベリアの大地とか、そういう感じのすごく広いところから見える水平線の上を、三両編成の列車がheを先頭にして視界の右から左に向けて走って行きます。ものすごくゆっくりと。ゆらゆらと陽炎に揺らめいて、遠くから見ると列車は動いているのかいないのかまったくわからない。目を凝らせば凝らすほど、その像はぼやけていき、終いには見ているこちらの目が痛んできてしまうほど。仕方なく目をつぶる。するとそれまで聞こえてこなかったheherhereの走る音が、急に聞こえてくるような気がして、さらに耳を澄ましてみる。そこにはheherhereの音以外にも、もっとたくさんのいろいろな音が、話し声が、遠くから近くから、聞こえてくる。と同時に意識は鳥の視点から、すなわち爆撃機の視点からheherhereの音を聞く自分が立つ地上を見下ろしてもいる。というような意味がheherhereにはこめられているわけなんですね。というのはまあ嘘ですが、実際、上の写真は、鳥が明け方のような空を、あるいは夕暮れのような空を美しく飛んでいるように見える。と同時に、どうしても爆撃機の編隊飛行にも見えてしまう。戦争に負けた国に生まれた者としては。
ところでここには3枚の写真が合成されていて、どうしても思い描く通りのイメージにならなかったその合成作業を終わらせたのは、原爆投下時のキノコ雲の写真でした。いまとなってはまったくその像を窺い知ることはできませんが、たしかにここにはキノコ雲の写真がレイヤーされている。すると夕焼けのオレンジはまるで街並みが燃えているように見えはじめ、その街の片隅では、「he」や「her」の「here」が危険にさらされている、その真っ最中なのです。
というような具合に、具体的なものを想起させないことばの組み合わせと、この世に存在しなかったはずの風景を写した写真という組み合わせは、ことのほか多種多様な断片的なイメージを発生させる、ということの実践をしてみましたよ。みなさんもどしどしふるってheherhereのお話を考えてきてね。